相続税と生命保険
生命保険の活用は相続税の節税の中で最も手軽な相続税対策といえます。不動産も相続税対策の点では有効ではありますが、「誰でもできるハードルの低さ」という点で、不動産より生命保険に分があります。
相続税は誰もが必ず払うものではない
財産を残せば必ず相続税がかかるというものではありません。基礎控除があり、3,000万円+600万円×法定相続人の人数(たとえば法定相続人が3人の場合は3,000万円+600万円×3人=4,800万円)を下回る財産であれば、相続税を納める必要は原則的にありません。
納めなければならない人にとっては、相続税は大変な税金となります。それは相続税以外の税金は所得や利益といった入ってきたお金から必要経費などで出ていったお金を引いた残りのお金に対して税金がかかるのに対し、相続税は亡くなった日における財産(必ずしも現金や預金ばかりではありません。不動産など換金しにくい財産もあります。)に対して税金がかかるからです。
そこで、相続税以外の税金は原則として現金で直ちに納めなければならないのに対して、相続税は土地などの物で納めたり(物納)、長期間分割して納めたり(延納)することも認められています。要するに相続税は物納や延納が認められているほど、納めるのに大変な税金であるということです。
遺産分割
相続税とは別に、故人の残した財産をどのように相続するかということも考えなければなりません。相続人の間でうまく分割がまとまればよいのですが、財産は自宅のみなど、分割の難しいケースもあります。
生命保険のメリット・デメリット
1.生命保険のメリット
(1)相続税の支払資金
相続税は被相続人が亡くなってから数ヶ月で納めなければなりません。誰もいつ死ぬかわかりません。いつかわからない日のためにお金を用意するということは大変なことです。相続税の額を予想し、満期時点の元本と利息で納付しようと預金を始めても、満期まで生きている保証はありません。
生命保険であれば、契約後直ちに効力が発生しますので、いつでも相続税を納めることができます。
(2)遺産分割用の資金
遺産分割において、土地や建物だけの場合、相続人の間で分けようがないこともありますが、生命保険に入っていれば、土地や建物のほかに現金があるので、相続人の間で満足するように分けることができます。
2.デメリット
変額保険で損をしたり、生命保険のかけすぎで財産を減少させることにより税金が減るのでは意味がありません。
たとえば、相続税1,000万円の予想が、変額保険で5,000万円損失があったために相続税を払う必要がなくなったが、差し引き4,000万円財産が減少してしまったというようなことがあります。
生命保険における民法上と税法上の財産の取り扱いについて
生命保険も「相続財産」には違いがありませんが、一般的な相続財産とは取り扱いがまったく異なることに注意が必要です。
○一般的な相続財産の取り扱いについて
・民法上の相続財産:遺言や遺産分割協議をする場合に対象となる財産
・税法上の相続財産:相続税の申告対象になる財産
一方で生命保険における財産の取り扱いについては、以下の例で説明すると、
【例】夫が死亡して、死亡保険金の受取人となっている妻が5,000万円の生命保険金を受け取った場合
民法上:保険金は受取人固有の財産となり遺産分割の対象には含まれない
税法上:遺産分割の対象ではないが、「みなし相続財産」扱いで課税対象にはなる
つまり、妻が受け取った生命保険金5,000万円は遺産分割の対象にはなりませんが、相続財産とはみなされるので、相続税の申告書に記載が必要になります。
○みなし相続財産とは
被相続人から相続または遺贈によって承継されたものではないものの、相続や遺贈によって取得されたものと同じような経済的効果を持つ財産のことをいいます。
生命保険(死亡保険金)は、被相続人が死亡して初めて被相続人のものとなる財産です。この死亡保険金の受取人を被相続人本人にしている場合、死亡した時点で被相続人がもともと持っていた財産となり、遺産分割の対象になります。
しかし、死亡保険金の受取人を被相続人本人ではなく相続人にしていた場合、それは被相続人の持っていた財産として取り扱われません。これでは事実上税金がかからないのと同じことになります。
このような不公平が起きないように、保険金の受取人が誰であっても、生命保険契約は相続財産とみなして(みなし相続財産)相続税の課税対象にしているわけです。
相続税の計算方法(概要)
相続税の計算方法は以下のとおりです。(①から⑤の順に説明します)。
①財産から債務、葬式費用、基礎控除(=3,000万円+600万円×法定相続人の人数)を差し引き、課税遺産相続を算出します。
※法定相続人とは、相続放棄があった場合においては、その相続放棄がなかったものとした場合における、民法に規定する相続人をいいます。
②課税遺産総額を法定相続分(※)により分割したと仮定します。
※法定相続人と法定相続分
相続順位 | 法定相続人と法定相続分 | |
子どもがいる場合 (第1順位) |
配偶者 1/2 |
子ども 1/2を人数で分けます |
子どもがおらず父母がいる場合 (第2順位) |
配偶者 2/3 |
父母等 1/3を人数で分けます |
子どもと父母がともにおらず、兄弟がいる場合(第3順位) | 配偶者 3/4 |
兄弟姉妹 1/4を人数で分けます |
代襲相続:相続人となるべき子どもや兄弟姉妹が相続開始前に死亡しているときは、孫や甥・姪が代わって相続することができます。
③法定相続分の財産に対して税率をかけ、相続人ごとの相続税の額を計算し、これを合計して相続税の総額を出します。
例:相続人が3人の場合
課税遺産総額
相続人Aの法定相続分の財産×税率-控除額=相続税額
相続人Bの法定相続分の財産×税率-控除額=相続税額
相続人Cの法定相続分の財産×税率-控除額=相続税額
各自の法定相続分の財産 | 税率(%) | 控除額(万円) |
1,000万円以下 | 10 | - |
3,000万円以下 | 15 | 50 |
5,000万円以下 | 20 | 200 |
1億円以下 | 30 | 700 |
2億円以下 | 40 | 1,700 |
3億円以下 | 45 | 2,700 |
6億円以下 | 50 | 4,200 |
6億円超 | 55 | 7,200 |
④実際の遺産相続は、法定相続分どおりにする必要はありません。相続人の全員が納得すれば問題ありません。
各自の相続税は、
相続制の総額×各自の相続財産/相続財産の合計
によって算出します。
どのような分け方をしても、相続税の総額は同じです。
⑤配偶者には「配偶者に対する税額軽減」があります。二次相続のときにはこの税額軽減が使えないので、二次相続時を想定して税金を考える必要があります。