生命保険の保険金は差し押さえることができる
定期保険や終身保険などの死亡保険は被保険者が死亡した段階でその保険金受取人に指定されている人が持つ「保険金請求権」という権利が確定的なものになります。
これにより保険金請求権は金銭債権となり、通常の債権と同様に取り扱いが行われ、譲渡、担保設定あるいは差し押さえが可能になります。また、解約返戻金も差し押さえが可能になります。
保険金請求権は金銭債権
事業資金の一部として友人に500万円を貸していますが、催促しても理由をつけて、なかなか返してくれません。その友人が最近、生命保険の受取人になったことを知りました。借用証書は公正証書にしておりますので、友人の保険金請求権を差し押さえたいと考えています。
上記の事例において、保険事故の発生前後を区別して、差し押さえができるか考えます。
1.保険事故発生後
死亡保険では被保険者が死亡すると、保険金受取人の保険金請求権が確定になります。保険金請求権は具体的な金銭債権になり、通常の債権と同じ扱いになります。
2.保険事故発生以前
(1)受取人が保険契約者の場合
保険契約者の解約返戻金の請求権を差し押さえて、保険契約を解約することができます。なお、保険契約者と被保険者が異なる場合、差し押さえた後に保険金受取の権利を移転する裁判所の転付命令を受ける場合には、その被保険者の同意が必要となります。
(2)受取人が保険契約者以外の場合
通常、保険約款では保険契約者の受取人の変更、保険契約者の解約権が自由に認められています。よって、この場合に差し押さえを認める実益はほとんどありません。
金銭債権の差し押さえについて
生命保険においては、保険金請求権や解約返戻金請求権などの権利を差し押さえることができます。ただし、保険金請求権だけに質権を設定した場合、保険契約を解除されて保険金から弁済を受けることができなくなることがあります。
また、解約返戻金請求権だけに質権設定した場合においても、保険事故が発生すると解約返戻金が受け取れないなど、債権回収ができない恐れがあるため、債権者は保険契約上のすべての権利に質権を設定する必要があります。
差し押さえとは、国が債務者のもつ財産処分権を剥奪し、処分することをいいます。差し押さえを行えば、債務者は保険金や解約返戻金を取得できず、債権者は保険金や解約返戻金から弁済を受けることができます。
差し押さえには、保険金と解約返戻金の権利のどちらに対しても行うことができますが、保険事故発生前に保険金請求権を差し押えても意味がありません。
この段階では保険金を受け取ることができないためです。そのため、保険事故発生前なら解約返戻金請求権に対して、保険事故発生後なら保険金請求権に対してというように、状況に応じて差し押さえを行うか、一括して行う必要があります。
なお、差し押さえに関する実務上の手続きは、保険事故発生以前に解約返戻金請求権を差し押さえ、保険契約を解約して解約返戻金の支払いを受ける方法がよく行われます。
生命保険は担保や質権設定もできる
生命保険においては保険契約を担保として銀行から融資を受けられます。融資を受ける際に質権を保険契約に設定することにより、債務者が死亡するなど返済が不可能になった場合においても、銀行は保険金から優先的に弁済を受けられます。
このように生命保険への加入によって融資の機会を増やすことができます。