「トンチン年金」はおトクな保険か?|長生きリスクを減らす方法とは?
老後のリスクとして、物価上昇のほかに懸念されることが、もう一つあります。
それは「長生きのリスク」です。
現代は男性の4人に1人、女性の2人に1人が90歳まで生きる長寿時代です。
自分が何歳まで生きるかはわかりません。
本来はありがたい長生きも、お金の面から考えるとリスクになります。
トンチン年金とは
老後は公的年金が収入の柱になりますが、それだけで暮らすのは難しいのが実情です。
多くの場合、現役時代に築いた資産を取り崩して不足分を補います。
「長生きすれば資産が底を突くのでは」と不安になる人も多いでしょう。
そんな不安を解消する手立てとして、今後注目を浴びそうなのが「トンチン年金」です。
17世紀のイタリアの銀行家、ロレンツォ・トンティが考えた仕組みなので、こう名付けられました。
長く生き残った者が得をするという「究極のサバイバル・ゲーム」のことです。
単純化していえば、最初に100人の人がトンチン年金に加入したとします。
そのうち50人が年金を受け取るまでに死亡すると、生き残った50人が100人で積み立てた原資を山分けして年金として受け取っていくというしくみです。
途中で死亡した人の遺族に払い戻される掛け金はごくわずかか、まったくないこともあります。
その代わり、年金開始時まで生き残った加入者だけが、積み立てられた年金原資を元に、高いリターンの年金を受け取ることができる。
まさに生存競争そのものです。
それがトンチン年金の原理なのです。
トンチン年金普及の背景
1.終身年金の運用の限界
一般の終身年金は、被保険者が生きている限り年金が支払われます。
長生きのリスクに備える個人年金保険の一種です。
ただ長引く低金利で、運用益を稼ぐことが難しくなっており、多くが販売停止に追い込まれているようです。
また、現在も取り扱いが続いている商品も保険料が高めになっています。
2.長生きリスクに対する新たな年金保険
トンチン年金は年金を受け取る前に亡くなった人に支払う死亡払戻金などを抑え、その分を長生きした人への年金に回して保険料を抑えています。
つまり、早く亡くなった人は不利になり、長生きした人は有利になるしくみです。
長生きするリスクに備えるための年金保険なのです。
日本生命保険や第一生命保険は、このしくみを取り入れた商品を扱い始めており、年金受け取り前に亡くなった場合に、払い込み保険料の7割が支払われます。
本来のトンチン年金の考え方では、年金受け取り前に亡くなった場合、払戻金額は0円です。
ただ、日本人は掛け捨て保険を嫌う傾向があり、こうした商品は、一部にトンチン年金の考え方を採り入れた形になっています。
2017年4月から、生命保険会社が契約者に約束する予定利率の指標で、金融庁が定める「標準利率」が、1.0%から0.25%へ引き下げられました。
その結果、各社が予定利率引き下げました。
個人年金保険など貯蓄性のある保険の収益率は下がり、その加入者数は今後伸び悩むと予想されます。
その打開策として、トンチン年金のしくみを採り入れた商品が今後増えるかもしれません。
年金受け取り前の死亡払戻金を今の商品よりさらに減らし、長生きした人へ支払う終身年金の原資を増やす商品が出る可能性もあります。
個人年金も「長生きした場合の安心感」を買う時代に変化しつつあります。
なお、一般的に女性は男性よりも長生きであることから、同じ条件のトンチン年金では、女性の方が保険料は高くなります。
トンチン年金は富裕層向け商品?
トンチン年金は誰にでも理想的な商品とは言い難いです。
商品の契約内容によっては、90歳くらいまで生きていないと受け取る年金の累計額が払い込んだ保険料総額を上回らないといったこともあります。
掛け捨てになる可能性が高い点を考慮すると家計に余裕のある人向けの商品といえそうです。
長い老後に向けては、手元のお金をしっかり増やしていくことが重要になります。
そのための商品として優れているかどうかは他の商品とも比較して判断する必要があります。
超低金利に対応するためには、よりトンチン年金の性格を高めた商品なども求められることも想定されます。
公的年金の受け取り方の工夫で長生きリスクを減らす
公的年金はすべての人が加入することになっています。
公的年金は終身で支給されるため、長生きリスクに対応しているといえますが、受け取り方を工夫すれば、より長生きリスクを減らせる可能性があります。
1.公的年金の受給開始の繰り下げ
公的年金には66歳以降に繰り下げて受け取ると、その期間に応じて年金額が増えるしくみがあります。
66~70歳までの間で1カ月刻みで受け取りを遅らせることができます。
1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ受給金額が増えます。
1年遅らせれば8.4%増、70歳まで待てば42%増になります。
たとえば、65歳で受け取れる年金額が厚生年金と基礎年金合わせて年200万円とすると、70歳から年金を受け取るようにすれば、約280万円になる見通しになります。
ちなみに65歳から本来の額で受け取る場合と、42%増しで70歳から受け取る場合を比べてみると、受け取った累積の年金額は81歳ごろに両者が同じとなり、それ以上生きれば後者の方がどんどん増えていきます。
老後の当面の資金にメドがついているなら検討に値します。
公的年金も長生きした方が得というトンチン年金の性格はあります。
公的年金の繰り下げ受給はこのトンチン年金の性格をさらに高めた受け取り方ともいえます。
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この記事はエーエフコースの記事より転載しています。